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第3話 レイのお店の様子を見に

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-08-26 19:04:08

 八百屋の店先に立てられた募集の看板――それは予想していた通りのものだった。

「やっぱりか……。」

 一家が亡くなれば、その店は当然、新たな買い手を探すことになる。 土地は領主の物で、管理をするのは役場。売り買いの権利はなく、領民はただ借りるだけ。

 毎月、売上の何%が家賃として課されるのか、それとも定額制なのか――。 そんな仕組みを考えながら、俺はふと疑問を抱く。

「……でも、まだ契約が残っているんじゃないのか?」

 八百屋を営んでいた一家がいなくなったとはいえ、契約期間が完全に終了しているわけではないはずだ。

 役場はどう処理するつもりなのか――。

 俺は少し息をつきながら、視線を先へ向けた。

 役場へ行くのは初めてだ。

 制度に関する細かな手続きを考えると、少し緊張する。

 だが――その不安よりも、俺の胸に残るのはレイの寂しそうな表情だった。

 あの表情を思い出すと、どうしても胸が苦しくなる。

「はぁ……よし、行くか。」

 俺は静かに決意を固め、役場へ向かって歩き出した。

 役場に着くと思い切って役場の人間に声を掛けた。

「なあ、八百屋の物件について聞きたいんだが……」

 緊張を隠しきれず、慎重に言葉を選びながら尋ねる。

「――あー、あの物件ですか。」

 役場の職員は軽く目を細めながら答えた。

「立地もいいですし、商売をするなら好条件ですよ。」

 その口調は、まるで単なる契約交渉のようなもの――すでに、店の元の持ち主のことなど考えていない様子だった。

 俺は少し息をつき、表情を引き締めた。

「あの店の子供を保護しているんだが、まだ契約の期限が残っているんじゃないのか?」

 不快さを隠さずに問いただす。

 その瞬間、職員の態度がわずかに変化した。

「子供ですか……?」

 その言葉には、興味ではなく明らかに面倒くさそうな響きが含まれている。

「その子供が商売をして、家賃を払うと?」

 まるで相手にする価値がないと言いたげな目つき――俺を追い払うための態度が露骨に表れていた。

 俺は一歩踏み込むように問い詰めた。

「期限はどうなんだ?」

「……期限と言いますがね。」

 職員は軽く肩をすくめながら、淡々と言葉を続ける。

「今月分の稼ぎで今月末の支払いをするんですがね……。家賃と税金もですよ、商業区画なので。税金を徴収できる見込みのない方にはお貸しできませんよ。ましてや子供になんて……。」

 その言い分は理解できる――役場としては当然の対応かもしれない。

 だが、話はそれだけでは終わらない。

 この子供の家族は領主の欲望の争いに巻き込まれて殺された。

 ただの契約や収支の問題ではない。

 それを考えれば、もう少し柔軟な対応があってもいいはず――。

「話は終わったか?」

 背後からの声に、俺は反射的に振り向いた。

「いや。まだだ!」

 苛立ちを隠せずに言い放つ。

「私も、その物件を借りたいんだが!」

 低い声の男が、一歩前に進みながら話を続ける。

「話を聞いていると、その子供が商売をできるとは思えんぞ? キミは何をしたいんだ?」

 言葉の鋭さに、一瞬言葉を詰まらせる。

 俺は――レイに帰れる場所を残してあげたいだけだ。

 それだけなのに、どうしてこうもうまくいかない?

 商売をさせたいのか?

 いや、レイにはまだ無理だろう。

 家賃なら払えるが、税金となると売上が必要になる。

 野菜の仕入れ、値段の交渉、価格の設定――そんなことを今のレイに任せるのは、到底できることじゃない。

「少し待ってくれないか?」

 懸命に言葉を絞り出すが、相手にされない。

「……出て行け。」

 その男は手を軽く振り、まるで俺を追い払うような仕草をする。

 無視して食い下がっていると――

 次の瞬間、兵士が俺の腕を掴まれ拘束された。

 逃げるのは容易い、兵士を倒すのも容易い、だが……この町を買い物や生活費を稼がなければ……。

 逃げ出すのには、人目がありすぎる――そう判断し、俺は大人しく捕まり、連行される道を選んだ。

 初めての牢屋。

 薄暗く冷たい石造りの壁に囲まれ、鉄格子が目の前にそびえ立つ。

 ……寝床もなければ、椅子もないか。

 俺は静かに息をつきながら、心の中でぼやいた。

 しかし――思い返せば、初めから領主に会いに行けばよかったんじゃないか?

 その方が手っ取り早かったはずなのに――失敗した……!

「なあー! そこの兵士の人! 話があるんだが!」

 俺は鉄格子越しに兵士に声を掛ける。

 だが、無反応。

「なー! 領主と知り合いなんだが!」

 そう続けても、兵士は俺の姿を一瞥しただけで何の反応も示さない。

 服装が悪いか? いつも着ているのはボロボロの農民風の服だし、こういうことを言う奴はきっと多いのだろう。

 まともに取り合ってもらえるわけがないか……。

 俺は諦めて冷たい床に寝転がりながら、領主と知り合いだと証明できるものを思い出した。

 ――あるじゃないか。

 一つだけ、俺が持っているもの。

 そう……領主から、なにかあれば役立つと渡された物。それは、領主の紋章が入ったネックレスを貰っていた。

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